KEK LUCXにおけるデジタルLLRFシステムを用いたビームの安定化

KEK LUCXにおけるデジタルLLRFシステムを用いたビームの安定化

この論文では、ビームの安定化を向上させるために、日本のKEKにあるLUCX加速器施設での低レベルRF(LLRF)制御システムのアップグレードについて検討しています。LUCX施設は、画像化やトモグラフィーに使用される高強度の単色X線を生成するために設計された電子線形加速器です。X線放射の品質(エネルギー、エネルギー幅、時間構造、フラックスなどのパラメータ)は、電子ビームの安定性と特性に直接依存しています。LLRFシステムによって制御される加速電場の位相と振幅は、これらの特性を保証する上で重要な役割を果たします。

新しいLLRFシステムのアーキテクチャは、RedPitaya STEMlab 125-14 FPGAボードと10 MHz内蔵PLL付きのAgilent E8663B信号発生器を使用しています。このシステムには、周波数分周器、バンドパスフィルタ、パルス変調器などの様々な要素が含まれ、RF信号とレーザーの信頼性の高い同期を実現しています。FPGAボードの使用により、125 MSa/sのサンプリング周波数で加速電場の位相と振幅の精密な制御が可能となり、システムの安定性が大幅に向上しています。LLRFシステムには2つのFPGAブロックがあり、SATAケーブルで同期を保っています。1つはRFソースの加速電場とレーザーを、もう1つは12セルの線形加速器とコンプトンレーザーを担当しています。

実験データは、新しいシステムがレーザーの注入位相制御の精度を100 fs(RMS)レベルに、加速電場位相の安定性を120 fs(RMS)精度で線形加速器に対して実現していることを示しています。この高精度により、電子ビームとコンプトンレーザーのレーザー・パルスとの同期も100 fs(RMS)まで達成されました。この安定性は、加速器トンネル内の温度や湿度の変化によるドリフトの影響を最小限に抑え、ビームの不安定性を低減します。

このように、改良されたLLRFシステムはX線放射の安定性を高めるだけでなく、ビームパラメータのより効率的な制御も可能にしています。これは、LUCXにおける実験目的を達成する上で重要であり、レーザーコンプトン散乱に基づくX線源のさらなる発展に寄与しています。

なお、MiraiTechics社とKEKの協力関係は数年来続いており、MiraiTechics社はKEK LUCX設備における実験や開発に使用されるRed Pitaya機器を供給しています。